失敗を転じて成功となすには - 『失敗は予測できる』

失敗は予測できる (光文社新書)失敗は予測できる (光文社新書)』は、失敗学で有名な畑村洋太郎氏に師事した中尾教授の著。

「歴史は繰り返す」といわれるように、人間は同じような失敗を繰り返す生き物。だから、失敗は予測できるという切り口で、数多くの失敗からいかに成功すべきかを追及しようという意欲作である。
本書で紹介されている失敗事例は、エキスポランドのジェットコースター脱線事故パロマ湯沸し器の不正改造、シンドラー製エレベーターの事故など、非常に豊富である。よく知られているニュース性のある事件を例に、挿絵とともに解説するのは、読み手をあきさせない工夫として良い。ただ、いささか、失敗事例のオンパレードが過ぎるように見えなくもない。

著者は、失敗を防ぐためには、それを対岸の火事とすることなく、似ている点を探して連想することが大切と説く。つまり、類似性に着目した想像力である。アナロジー思考とも言えよう。また、本書の狙いにもなっている、「失敗から逆転する」、つまり成功に向けた思考法のポイントは、「思考の昇降運動」である。

これは、いわゆる抽象化思考(コンセプチャルシンキング)である。一つの特殊な課題に対し本質を見抜いて抽象的な一般課題へと昇華し、抽象的な一般解を導いたうえで個別の特殊解へ展開していく。日ごろ、問題解決やエンジニアリングに携わっていれば、さほど、珍しい思考法とは言えなくもないが、これを仕組みとして整理した点は評価に値する。

実は、本書にある事例の多くは、ネットで公開されている失敗知識データベースに納められている。ITエンジニア進化論:失敗から学ぶ人、学ばない人【その4】でも紹介したように、失敗知識データベースには、1000件以上の失敗事例が収録され、失敗の事象やいきさつ、原因と対策が整理されている。ただ、このデータベースは、複雑で言葉も硬く、ややわかりずらい。その点、本書は、新書ならではの平易なわかりやすい解説で一気に読める。

さて、ここで質問。

マンホールの形が四角ではなく丸である理由は何?

私は、この解説を読んで、はたと膝を打った。ヒントは、フールプルーフ。つまり、安全対策にある。わからない方は、四角形の一辺の長さと対角線の長さの違いに注目しよう。

【付箋チェック】

事故は、本業から分立した規模の小さい組織で起きる。なぜなら、本業ではないため、利益が少なく安全対策に金をかけていない。その結果、人材や訓練が不足する。しかも、歴史が浅いため、事故の類似性に着目したリスクを感じたこともない。

第1章 失敗は予測できる

1−1 安全の基準
1−2 失敗は似ている
1−3 失敗から連想する
1−4 失敗の原因
1−5 組織の失敗シナリオ

第2章 失敗は回避できる

2−1 失敗回避の落とし穴
2−2 打開策
2−3 失敗の事前対策
2−4 失敗後の後始末
2−5 二重事故を防ぐ
2−6 失敗のワクチン

第3章 失敗から逆転する

3−1 失敗から成功へ
3−2 成功にもしくみがある
3−3 設計の思考過程
3−4 思いを言葉にする
3−5 エイヤーッの失敗
3−6 別の答えを見つける