ヘーゲルの弁証法をビジネスの視点から学ぶ - 『使える弁証法』

使える 弁証法使える 弁証法』は、シンクタンク出身でソフィアバンクを主宰する田坂広志の著作。

ヘーゲルが唱えた弁証法を軸に、IT社会の動きをいかに分析し今後を予見できるかを解説している。すなわち、本書は、「弁証法をいかに仕事に役立てるか」を主題としており、哲学としての弁証法を正統に解説しようとはしていない。
予見力の鍵は、螺旋的発展にある。本書では、その例としてオークションやギャザリング、ボランティアなどを紹介している。懐かしいビジネスモデルとして一見、姿を消したものが、新たな付加価値をつけて戻ってくる。そのことを田坂氏は「螺旋的」発展と呼ぶ。つまり、元の形に戻ってきているようで、実は一段上へあがっているのである。

この螺旋的発展は今に始まったことではなく、過去から存在していた。ただ、動きが遅すぎて気づかなかっただけだ、と著者は言う。いまはドッグイヤー、マウスイヤーとも言われるほど、世の中の動きが早い。人生が終わらないうちに日常的に螺旋的発展を目にするようになる。

動きが早い世の中では、企業は戦略の陳腐化を問題として抱える。そのため、先の変化を予見していくことが求められる。この螺旋的発展を目撃するにはどうすれば良いのか。多少、乱暴には感じたが、著者は「タウン・ウォッチング」を勧めている。

このように本書では、螺旋的発展をはじめ、量から質への転化、対立物の相互進展による発展、否定の否定による発展など、弁証法に出てくる法則が網羅されている。やや、こじつけ的な面も否めないが、とかく難しい弁証法をビジネスに例えてわかりやすく解説している本として評価できる。

本書は、『自分であり続けるために 流されず、いまを生き切る50のメッセージ』をはじめ、田坂氏の著作の多くがそうであるように、行間を生かした形式で言葉をかみしめながら短い時間で読み込んでいける。私は30分ほどで読了した。

すぐに実践で使えるとは思えないが、世の中の動きをいかに読むべきかを考えたいとき、また、他人に弁証法とは何かを説明するとき、役に立つ本であろう。

【付箋チェック】

我々の生きている世界は、企業における「利益追求」と「社会貢献」のような矛盾に満ちている。矛盾を「割り切る」ことは魂の弱さであり、マネジメントたるもの、その矛盾を弁証法的に止揚(対立を統合しより高い次元へ昇華)して全体バランスをとっていかなければならない。

序話 なぜ、調査や分析をせずに、未来が見えるのか

第一章 弁証法は、役に立つ
第一話 「弁証法」は、日々の仕事の役に立つ
第二話 弁証法において、「最も役に立つ法則」
第三話 世の中の「螺旋的発展」を引き起こした革命
第四話 単なる復活や復古ではない「螺旋的発展」
第五話 これから「懐かしいもの」が復活してくる
第六話 「未来進化」と「原点回帰」は、同時に起こる
第七話 なぜ、この時代に「螺旋的発展」が起こるのか
第八話 日常生活で「螺旋的発展」を目撃する時代

第二章 弁証法を、どう使うか

第一話 消えたものは、必ず「復活」してくる
第二話 消えたものには、「意味」がある
第三話 復活では、必ず「価値」が付け加わる
第四話 現在の動きは、必ず「反転」する
第五話 「主戦場」は、どこに移るか
第六話 「主戦場」は、いつ移るか
第七話 「主戦場」の移行を、いかに早めるか
第八話 「対立」するものは、互いに似てくる
第九話 世の中の「矛盾」にこそ、意味がある

第三章 弁証法で、身につく力

第一話 弁証法を知ると「対話力」が身につく
第二話 弁証法を知ると「歴史観」が身につく