肩の力を抜いて勉強に取り組める『つまみぐい勉強法』

■肩の力を抜いて勉強に取り組める良書
IT業界を楽しく生き抜くための「つまみぐい勉強法」 (技評SE選書)』は、日本XPユーザーグループなどのコミュニティで活躍している渋川よしきさん、奥乃美さんの両氏による著作である。

いま、IT業界は、金融や製造など、顧客企業の景気に左右されて停滞気味である。しかし、仕事量が減っている今こそ勉強し、次の成長につながる力を蓄えるべきであろう。本書は、そんなエンジニアの成長に役立つ内容となっている。

「つまみぐい」という言葉は、本来、夕食の準備中につまみ食いするなど、あまり良いイメージでは使われていない。しかし、本書は、「つまみぐい」を前面に出し、これから勉強にとりかかろうとしている若手エンジニアを勇気づけ、見事に良いイメージに転換しているのが新味である。

本書の読者対象は、これからIT業界に入るがやっていけるのか不安がある。先輩につきっきりで指導してもらっているが独り立ちしたい、まだベテランというほどの自信はない。

というように、まだ勉強の習慣が身についていない人である。本書は、こういった読者に対して、まずは興味をもったところから「つまみぐい」で良いので勉強を始め楽しく続けよう、というメッセージを送っている。
■勉強をするなかで目標を見つければ良い
つまみぐい勉強法には、次の3段階がある。

・えいや、で始める
色々考えて、勉強を始めないよりは、まず興味があるもの、仕事で使えそうなテーマを選び、やり方を決めてさっそく始める。

・ほかの勉強へスイッチする
楽しくて夢中になれれば良いが、続けられなければ、他のテーマに切り替える。

・テーマは変わっても勉強自体は続ける
社会人として引き出しを増やし目標を見つけるために、なんらかの勉強を続ける。

ここで、興味をひいたのは、「勉強をするなかで目標を見つけよう」という点。本来、勉強は「手段」であって、「目的」ではない。まずは目的を決めて、それに合った勉強のテーマや適切な方法をとる必要がある。

しかし、IT業界に入って間もない頃やビジョンが明確ではないとき、勉強の目的自体を決めることも難しい。目的を待っていてはいつまでたっても勉強を始めれない。勉強していけば、世界が広がっていき、自分にあったテーマややりがいのあるテーマが見えてくる。そう、本書は訴えているのである。

これには、同意できる。経験が浅いうちは、どんな仕事が自分に合っているのかが見えにくい。そんな時、色々と学んで自分自身の感情の変化に注意を払う必要がある。また、勉強会などで様々な人に接して、ロールモデルを見つけるのも良い方法となる。

■勉強法には、守りと攻めがある
本書の2章と3章では、守りの勉強法と攻めの勉強法が紹介されている。守りの勉強法とは、与えられた仕事に対する勉強である。つまり、必要に迫られて取り組むわけであるが、仕事全体や自分の役割をいかに認識するか、情報収集法や先輩への質問の方法など、手取り足とりで丁寧にガイドされている。

攻めの勉強法では、本書の売りの一つである「自ら学ぶ方法」について解説している。読書における本の選び方の戦略として、品質の良い設計・実装の低レベル・より良い習慣・新しい分野の4つの方向性を示しており、おすすめの書籍も具体的に紹介されている。

また、オープンソースをはじめ良いソースコードから学んだり、ブログの作成による学習強化、翻訳から学ぶなどもある。これらは、私の経験上、どれもうなづける方法ばかりであり、使うプログラミング言語やツールは変われど、本質は変わっていないと感じた(私の場合はGNU関係だったが)。

■攻めの一環としての勉強会への参加
本書が、最も紙面を割いて解説しているのが勉強会である。なるほどと思ったのは、勉強会のメリットとして、初心者でもロケットスタートできる点だ。

勉強会と言えば、勉強のモチベーションの維持や人脈づくりが注目されがちだが、ベテランがいる勉強会に行けば、勉強のやり方や必要な情報を教えてくれる。忙しい中で効率的に勉強する際、大きなメリットとなる。

また、勉強会の探し方として、IT勉強会カレンダー(http://tinyurl.com/itcal/)などが具体的に紹介されている。これから勉強会に参加したい方にリファレンスとしておすすめできる。

ただし、勉強会で効果を上げるためには、「参加することに意義がある」ではなく、事前の準備や心構え、フォローが重要となる。本書は、勉強会の落とし穴についても、詳しく解説しており、初めて勉強会に参加する人に役立つ内容となっている。

■勉強会を開催するノウハウも公開
自分が勉強したいことがある場合、それをテーマに勉強会を主宰するのが、最も良い方法である。なぜなら、人を引き寄せることは、情報も引き寄せることにつながるからである。
本書では、勉強会開催までの段取りを、目的・前提の明確化、勉強会の設計、開催、KPTチャートによる振り返りの流れで解説している。

■勉強が得意な人も振り返るきっかけに

本書がぴったりはまるのは、これからIT業界に入る学生、入社間もない若手エンジニアであろう。

しかし、業界に入って約20年、勉強オタクである私が読んでも、目的がはっきりしない人の取り組み方法、勉強会開催の段取りなどが参考になった。

また、家族の協力を得るスタディライフバランスの面も補足されている点に共感できた。実は、私も、コミュニティの活動と家族と過ごす時間とのトレードオフでいつも悩んでいた。

長く業界に生息しているからこそ、見えなくなっているものがあるのかもしれない。自分が取り組んでいる勉強方法、人にアドバイスしている勉強方法を振り返る良いきっかけとなった。

本書は、実際に勉強をしなければと焦っている人だけではなく、システム開発の現場で人材育成に携わっているリーダーの方々にもぜひ読んでいただきたい一冊である。

IT業界を楽しく生き抜くための「つまみぐい勉強法」 (技評SE選書)

IT業界を楽しく生き抜くための「つまみぐい勉強法」 (技評SE選書)